石の上に何年?

2013/03/03

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東京学芸大学の鉄矢悦朗先生(東京学芸大こども未来研究所理事)と環境・プロダクトデザイン研究室の学生さん12名の延岡での「デザイン文化研修」が今日から3日間の日程で始まりました。

詳しい報告は後日させていただきますが、今日たくさんあった感動や喜び、発見の中で一つだけ記したいと思います。

本日の午後、旭化成㈱を訪問しました。工場見学の前に、まず向陽倶楽部で、延岡支社の真野勝文総務部長から旭化成の概要、歩み、地域貢献など、さまざまなお話を聞かせていただきました。

その中で、現在世界一のシェアを占めるリチウムイオン電池のセパレーターの技術開発・実用化・販売までに20年かかったというお話がありました。

ちなみにリチウムイオン電池自体、旭化成の社員の方の発明です。(ノーベル賞候補だと以前聞いたことがあります。)

日進月歩の工業技術の世界、「ドッグイヤー」と言われるビジネスの世界で、20年もの長い間研究開発を続けるには、必ず成功すると信じ続ける精神力、批判されても堂々としている精神力、それも並大抵ではない精神力が必要だったと思います。

きっと内外からものすごく強い「潰しにかかってくる力」が絶えず襲ってきていたと思います。

一方、夕方、北浦町の「道の駅北浦」で開催された、地域の教育力などに関する研究交流会では、鉄矢先生や、九州保健福祉大学の安原青兒先生から、国や自治体の事業が3年サイクルでビルド&スクラップされて、成果をわかりやすく表現する方法を見つけられないために予算が切られてしまうという話も披露されました。

さらに、その風潮が強まるにつれて、本当に必要かどうかよりも、成果がわかりやすく出るものしか手を付けなくなるという思考パターンに陥ってしまうという話もありました。

激しい国際競争にさらされている工業技術の世界の20年。

それにひきかえ、3年間の成果についての表現方法のわかりやすさだけで是非を判断されてしまう公的な世界。

かつて私の亡き父・読谷山昭や我が研究会の副代表の今井厚子のご主人・今井潤さんがML(イオン交換膜)に取り組んでいたときも、経営陣の多くから「あんな金喰い虫はもうやめたほうが良い」と言われ続けたそうですが、現場の粘りや海外での販路の拡大によって何とか巻き返し、今や旭化成のMLは世界の40%のシェアを占めるまでに成功しています。

また、今や自動車の世界では標準装備になっているエアバッグも、ホンダが実用化にこぎつけるまでに15年以上もかかっています。

http://www.honda.co.jp/novel-honda/souzou.html

最近よく「今の日本の企業には独創性がないから負けるんだ」とか、「今の日本人はイノベーションを起こせない」などと言われます。独創性が必要なのは言うまでもありませんが、むしろ今の日本に一番必要なのは、実は「上に立つ者」の「信じ続ける力」なのかも知れません。

民間企業の世界でも、国や自治体という公的な世界でも、結局は「上に立つ者」の見識、さらには必ず成功するという自信を持ち続ける精神力、堂々とし続ける精神力が必要なのだと思います。

国や自治体の場合、必要なことでも最初は大ブーイングを食らうような仕事に取り組まなければならない場面がしょっちゅうあります。

国会・議会やマスコミ、国民・住民の声など、「潰しにかかる力」がどんどん襲ってくるので、それを跳ね返す精神力が、特に政治の世界で問われます。

今日の午後、一行とともに訪問した旭化成の愛宕事業所で、かつて薬品工場長だった父の写真を見ました。

「お前は何が大事なのか、わかっているのか!」と父から問われた気がしました。