「階級社会は悪」というウソ - 拙著「新・日本通鑑2」より

2018/05/27


 

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その3より続きます。
 
 
江戸時代についてもまた、私達はマルクス主義史観に基づく「虚構」を刷り込まれています。
江戸時代には、確かに「士農工商」という身分差がありました。しかしそこに、マルクス主義史観の言う「階級闘争」などほとんど存在しません。「士農工商」は、階級というより「区分」に過ぎないのです。

「武家は『切り捨て御免』の特権階級だった」
などと学校教育において刷り込まれますが、これはほぼ誤りです。
「切り捨て御免」など、滅多なことでは行使できず、もし行使しようものなら大変な目にあっています。刀を抜くだけでも大事(おおごと)になっていました。
彼らは幼少期より高度な教養、モラル、武術や胆力を身に付けていたため、農工商といった他の階層から自然とリスペクトされていたに過ぎません。武力で農工商を抑圧、搾取していたわけではないのです。
 
「武家は遊んで暮らせる富裕層」
というイメージも大きな誤りです。
 
武家はそれぞれ、今日で言う行政、司法、警察(治安維持)や自衛などといった役割を持ち回りで担っていました。それから公共工事や災害復旧作業に駆り出されました。基本的にはちゃんと働いていたのです。
また知行(領地)に応じた、家来や使用人等の雇用を義務付けられていましたから、雇用創出やその維持にも一役買っていました。いかに自らが借金まみれになろうと、大勢の家来や使用人を代々にわたり食わせていく義務を負っていました。
 
今日、中高年を中心にほぼ毎晩のように、テレビの陳腐な時代劇によっておかしな歴史イメージを植え付けられるのも、あまりよろしくないですね。
常に悪代官や木っ端役人が登場し、農民や町民を苦しめる。貧乏な町娘が泣きながら小銭をかき集め、病気のおとっつあんの薬代捻出に苦心する・・・・(苦笑)
 
私腹を肥やす悪代官や役人は、それ程たくさん居ませんよ(^^;
武士は高潔であることを求められた時代です。私腹を肥やすような汚い行為があれば、発覚次第糾弾されました。当人はもちろん、恥を雪(そそ)ぐため自ら腹を切ります。
あの有名な老中田沼意次の汚職は、実はウソだったと判明しています。彼の死後に幕府が調査を行ったところ、私財はほとんど存在しませんでした。
 
また、貧乏なのは町民や農民だけではありません。大名や豪商など一部を除き、みな等しく貧乏だったのです。薬など、親孝行な町娘ならずとも決して気軽に買えるものではありませんでした。
ちなみに、医者も貧乏でした(笑)
 
では、そんな江戸時代は「幸福ではなかった」のでしょうか。「平和ではなかった」のでしょうか。
 
江戸時代は、確かに身分が固定されていました。しかし同時に、資産、職業的スキル、信用など様々なモノを、子孫が確実に継承していました。
つまり「家業」を継承し、衣食住を持続的に確保するシステムがあったのです。
これこそが日本古来の社会思想に根付くシステムであり、その集大成が江戸時代の社会なのです。
 
江戸時代は確かに、ごく一部を除き、みな等しく貧乏でした。しかし今日の社会よりずっと、幸福度の高い時代でした。だから(飢饉時を除くと)争いらしい争いもなく、非常に完成度の高い社会だったと言えます。
その結果として、260年もの「平和」が続きました。
 
厳格な階級制度を堅持したから、平和だったのではありません。太古より受け継がれてきた「成熟度の高い社会思想」に基づく、極めて合理的な社会が築かれたからこそ、幸福度が高く平和だったと理解すべきなのです。
 
 
その5へ続きます。